インドでの農民の自殺についてメモ

http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20090416_1500_farmers_mass_suicide/
を読みました。

 「集団自殺」というタイトルは、個人的な語感からは少しばかりミスリーディングではないか、と思いました(インディペンデント紙の記事は、「組織的に」、「一斉に」ではなく、「多発」ということを伝えていたように思います)*1。しかし、問題自体は興味深かったので、検索して出てきた関連記事をメモしておきたいと思います。個人的関心に従った整理で、元記事の全ての論点を網羅してはいないので、関心のある方は原文を確認してください。


  • 「チャッティーシュガル州、農民の自殺率首位に」(2008年4月)

http://www.hindustantimes.com/StoryPage/StoryPage.aspx?id=5e75802f-5af3-4b57-91f6-829820050304&&Headline=Chhattisgarh+tops+farmer+suicide+table

・中西部のマハーラーシュトラ州や南東部のアーンドラ・プラデーシュ州に比べ、東部の小州チャッティーシュガルの農民の自殺は注目されてこなかったが、2001年から自殺率は最も高かった。
・2006年のデータによれば、チャッティーシュガルの農民の自殺率は、10万人に対し6.49人、マハーラーシュトラは10万人に対し4.28人、アーンドラ・プラデーシュは10万人に対し3.24人。


  • 「1997年から2005年にかけて、15万人近くの農民が自殺」(2007年11月)

http://www.thehindu.com/2007/11/12/stories/2007111257790100.htm

・1997年から2005年にかけての9年間に15万人近くの農民が自殺。
・三分の二近くが、全人口の三分の一を抱える五つの州に集中(中西部のマハーラーシュトラ州、南東部のアーンドラ・プラデーシュ州、南西部のカルナータカ州、この間に分離したチャッティーシュガル州を含む中部のマディヤ・プラデーシュ州、南西部のケーララ州)。
・ケーララでは継続的な増加はみられない。2003年がひどかったため。その他の四州では、非農民の自殺者数の伸びに比して、農民の伸びが大きい。マハーラーシュトラが最悪で、1995年の1083人から2005年の3926人へ増加。


  • 「大日照り」(2007年7月)

http://www.indiatoday.com/itoday/20070611/cover3.html

・60%の耕作地が天水に依存している。
・1981年から1991年の期間に比べ、1991年から2004年のかんがい地拡大の伸び率は落ちている。
・開発計画に改善の余地が多いにある。
・特に米作とサトウキビ栽培において、水を使いすぎて地下水位が下がっている(北西部のパンジャーブ州の例)。
・地下水位に関しては、南西部のカルナータカ州や北部のウッタル・プラデーシュ州にも同様の問題がある。


  • 「農民の自殺」(2006年6月)

http://www.thehindubusinessline.com/2006/06/20/stories/2006062002021100.htm

・インドにおけるほとんど全ての農民の自殺は、債務に関連している。
・債務を背負った農民は、一般的に収穫期の直後に返済を求められる。
・彼らは農産物を収穫直後に売却することを強いられる(事前に価格や量が決められていることもある)。
・そのために収入が低く抑えられている。

・仲買人の搾取。

・高リスクでリターンが安定しない換金作物栽培。

・先進国の農業補助金WTOの市場開放圧力、アグリビジネスの問題。

・政府は、低利の貸付、畜産を含む複数の収入源、かんがいの整備、農作物保険、を提供するパッケージを準備していると伝えられる。それらは有用だろうが、おそらく不十分。


  • 感想

 「AP州の事例を挙げると、この数年、新聞報道をにぎわし続けたのが農民の自殺である」(黒崎[2005])と、何年も注目されてきた問題のようです。

 「インドのような大国を、マクロの数字で見ることは誤解を生む。地域格差、階層格差、ジェンダー格差が大きいからである。」(黒崎[2006])というように、画一的なイメージを持つことには注意したいと思いました。

 インド全体としては経済成長を続けていて、穀物生産も増加していますが、貧困削減の効果については議論があるようです(須田[2007])。

 結局チャッティーシュガル州事情の理解にあまり役立つ記事とはなりませんでしたね。今後の課題としたいと思います。


  • 参考

黒崎卓「インドにおける貧困問題の現状と対策」財団法人国際金融情報センター『インドの経済問題と今後の効果的な対印経済協力の方策(財務省委嘱調査)』、2005年
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/tyousa/1703india_8.pdf
黒崎卓「MDGs達成に照らした教育・保健・食糧・貧困の状況と課題」財団法人国際金融情報センター『インド経済の諸課題と対印経済協力のあり方(財務省委嘱調査)』、2006年
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/tyousa/1803india_8.pdf
須田敏彦「インドにおける農業・農村の現状と課題」財団法人国際金融情報センター『インド経済の諸課題と対印経済協力のあり方に係る研究会(財務省委嘱調査)』、2007年
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/tyousa/1903india_08.pdf

*1:追記:1500人という数字は年間の総計のようです。 http://www.cgnet.in/Members/shu/ufanarticles/ufanenglish/baasieng220208/document_view 一番下の表を見てください。