「カースト」記述さまざま〜その4

インド古来の四種姓はヴァルナという


 前回から「ヴァルナとジャーティ」という部分を読んでいます。先に出てきたのは後者の方でしたが、続いて前者について説明されます。

一方,日本ではカーストというとインド古来の四種姓,すなわち司祭階級バラモン,王侯・武士階級クシャトリヤ,庶民(農牧商)階級ヴァイシャ,隷属民シュードラの意味に理解されることが多い.インド人はこの種姓をヴァルナvarna〔引用者注.原文ではnの下に点〕と呼んできた.ヴァルナとは本来<色>を意味する語である.アーリヤ人のインド侵入当時,肌の色がそのまま支配者である彼らと被支配者である先住民との区別を示していたため,ヴァルナという語に<身分><階級>の意味が加わり,混血が進み肌の色が身分を示す標識でなくなったあとにおいても,この語は依然として<身分><階級>の意味に使われ続けたのである.4ヴァルナのうち上位の3ヴァルナは再生族(ドヴィジャdvija)と呼ばれ,これに属する男子は10歳前後に入門式(ウパナヤナupanayana(2度目の誕生))を挙げ,アーリヤ社会の一員としてヴェーダの祭式に参加する資格が与えられる.これに対しシュードラは入門式を挙げることのできない一生族(エーカジャekaja)とされ,再生族から宗教上,社会上,経済上のさまざまな差別を受けた.そして,シュードラのさらに下には,4ヴァルナの枠組みの外におかれた不可触民(今日では指定カーストscheduled casteと呼ばれる)が存在した.彼らは<第5のヴァルナに属する者(パンチャマpancama〔引用者注:nの上に~〕>とも<ヴァルナを持たない者>とも呼ばれる.なお,時代が下るとともにヴァルナと職業の関係に変化が生じ,ヴァイシャは商人階級のみを,シュードラは農民,牧者,手工業者など生産に従事する大衆を意味するようになる.こうした変化にともないシュードラ差別は緩和されたが,不可触民への差別はむしろ強化された.

出所:辛島昇ほか監修『南アジアを知る事典』平凡社、1992年10月、136ページ。


専門用語が次々と登場して圧倒されますが、キーワードとして適切な分量を考えるとある程度削らざるを得ないでしょう。幸いにも、はてなキーワードには「ヴァルナ」という項目があるらしいので、詳しい説明はそちらを拡充すればよさそうです。


はてなキーワード「ヴァルナ」

vara

インドのカースト制度における身分のこと。

出所:http://d.hatena.ne.jp/keyword/%a5%f4%a5%a1%a5%eb%a5%ca

スペルミスもあるようなので、ついでに修正を試みましょう。


 さて、学校で習ったおなじみの四つの「身分」「階級」がでてきました。インドではそれを「ヴァルナ」というようです。前回の「ジャーティ」との関係については次回に読む部分で出てきますので一旦保留します。


 では、いつものように、4月1日エントリで取り上げたものについて検討していきましょう。


 まず、「インド古来の身分・階層であるバルナのこと」とあるgoo辞書は、上掲引用の「身分」「階級」に対応しています。読みはもとの綴りと一致していること、『広辞苑』にも採用されていることを重視して、「ヴァルナ」の方が適切と考えます。また、カーストの第一義をヴァルナとすべきかは問題となりそうです。


 次に、『広辞苑』(第五版)を確認します。「ヴァルナ」は「カースト」とは別項になっていて、その説明は以下のとおりです。

(色の意)インドの種姓制。バラモン(祭官、僧侶)、クシャトリヤ(王族および武士階級)、ヴァイシャ(平民)、シュードラ(隷属民)をいう。不可触民は第5のヴァルナとされる。五つのヴァルナの大枠の内部に多数のカーストが存在。

出所:SEIKO IC DICTIONARY SR9100


 簡潔です。「僧侶」は仏教用語のように思いますが、他は訳語もほぼ『事典』と同義です。触れられていない各ヴァルナ間の差異については、どの程度記述すべきか考えねばならないでしょう。


 続いて、wikipedia日本語版を見てみます。

基本的な4つのカースト(ヴァルナ・四姓)

ブラフミン(サンスクリットブラーフマナ、音写して婆羅門(バラモン))

神聖な職に就いたり、儀式を行うことができる。ブラフマンと同様の力を持つと言われる。「司祭」とも翻訳される。

クシャトリア(クシャトリヤ

王や貴族など武力や政治力を持つ。「王族」「武士」とも翻訳される。

ビアイシャ(ヴァイシャ)

商業や製造業などに就くことができる。「平民」とも翻訳される。

スードラ(シュードラ

一般的に人々の嫌がる職業にのみ就くことが出来る。ブラフミンには影にすら触れることを許されない。「奴隷」とも翻訳されることがある。先住民族であるが、支配されることになった人々である。

カースト以下の身分

カースト以下の人々もおりアチュートという。「不可触賎民(アンタッチャブル)」とも翻訳される。力がなくヒンドゥー教の庇護のもとに生きざるを得ない人々である。にも拘らず1億人もの人々がアチュートとしてインド国内に暮らしている。彼ら自身は、自分たちのことを『ダリット Dalit』と呼ぶ。ダリットとは壊された民(Broken People)という意味で、近年、ダリットの人権を求める動きが顕著となっている。


まず、ヴァルナの片仮名表記が独自です。『事典』と『広辞苑』が同一なので、後者を採用した方がよさそうです。

 また、『事典』の方は、ヴァルナと職業の関係が時代により変わったとしているのに対し、wikipediaは固定的です。シュードラに関して「農民・牧者・手工業者」(『事典』)は「人々の嫌がる職業」(wikipedia)と一般的には言えないと思います。この点は、『事典』には、それぞれのヴァルナについての項目があるようですから、後日また検討することにします。

 さらに、「不可触賤民」についても、言及している時代についてわかりにくい表現となっているため、『広辞苑』と『事典』の「不可触民」と対照させながら妥当性を考えたいと思います。

 本日はここまでにします。

(追記)シリーズが長くなりそうですので、出所表記に前掲書を使うのを止めました。